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Vol.06 「からんころん」

竹田の町の心ある人達で発行していらっしゃるのであろう「からんころん」というしゃれた小雑誌が時々送られてくる。初めて送られてきたときからこの誌名の響きに懐かしさと親しみを覚え、いつも一気に読んでしまう。内容も竹田の春先の土の香りがするような温もりを感じ、飾らず素朴でそして細やかな文章がびっしりと詰まっていて充分楽しませてくれる。
いまはすっかり影をひそめたが、私共の子供の頃はよく下駄をはかされた。いまいうサンダルなどもなく、自分のが見つからない時は親の大きな下駄に足を突っ込み走り回っていたものである。竹田のあの石畳をそれこそカランコロンと響かせて歩いていた頃がついこの間のことのように想い出される。
最近謡を稽古していらっしゃる方のみならず、私共玄人仲間にも膝が痛いの悪いのと云って尻の下に敷物を据える人をよく見かける。父達の時代少なくとも私共が子供の頃はそんな事はまずなかった。その原因の第一は車時代になり、歩かなくなった事に他ならない。歩くためにある足を使わなければ膝もいうことをきかないのはあたり前。それに靴やサンダルの出現で足許までソフトなクッションがついてしまい拍車をかけてしまったに違いない。
つい先日仲間内の楽屋話で膝が悪くなるのは職業病だ、云々の話が出た折、「昔からそうか?」との問いには一同だんまりであった。いまも能楽界笛方第一人者藤田大五郎先生は八十を迎えられてもなお二時間を越すどんな長い能でも、正座されたら終るまで微動だにされない。秘訣を伺うと三時間座ったら三時間歩けば元に戻ります、と仰ったそうである。何も語らず何なくそれを毎日実践される資性と不屈の精神、我々が今忘れかけている一番大事な事であり、能の本質を支えている最も大切な心はここにあるのではなかろうか。
カランコロン、たけたの町にいつまでも響いて欲しいものである。

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